幻想と怪奇とSFと

このページでは、わたしが訳したSci-fi & Fantasy + Horror案件などについて、お仕事やそのメモを中心にまとめてあります。

なおファンタジーのフリー翻訳はあちこちのページにあるので、そちらもご参照ください。



アーシュラ・K・ル=グウィン

月刊誌『ユリイカ』の2018年5月号「特集=アーシュラ・K・ル=グウィンの世界」にて、論評寄稿しました。
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以前寄稿した『ユリイカ』2018年5月号(特集=アーシュラ・K・ル=グウィンの世界)の際にお話ししていたことが、ようやく形になりました。個人的にもお届けしたかった幻想譚「水甕」、童話の変奏譚「狼藉者」なども収録された珠玉の未邦訳短篇集『現想と幻実 -ル=グウィン短篇選集-』が共訳で刊行中。
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引き続きル=グウィン未訳書の翻訳刊行計画第2弾『文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室』が2021夏刊行。本書はル=グウィンが行っていた執筆ワークショップを書籍としてまとめたもの。文章に対する意識も綴られていて、『現想と幻実』所収の作品群で試みられた多彩な文体の解説としても読めます。
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『現想と幻実』に何篇か収録した『海岸道路』(Searoad: Chronicles of Klatsand)の完訳もあらためてどこかから出せるといいのですが……

ル=グウィン晩年作一覧

ル=グウィンは晩年にも短篇・掌篇をいろいろと書いているのですが、作品集としてまとまっていないものも多くあります。未訳ものをまとめるだけでも短篇集がもう1冊はできるのでは。

  • "The Alien's Tale" (2000):アムメン人と自動翻訳機でやりとりをするのだけれど言葉と文化の差があって……
  • "The Wild Girls" (2002):ローカス賞獲ったので『SFマガジン』2004年3月号に訳載済み)
  • "Little and Big: A Story about a Town" (2003):掌篇――「むかしむかし、大きな海のほとりにちいさな町がありました。」
  • "The Kalends of June, 766 BCE" (2008):おそらくLavinia (2009)への習作。オウィディウス『ヘーローイデス』の形式に倣ったラーウィーニアからアエネーアースへの書簡体の物語で、この作品でラーウィーニアの肉声を探ったと思われる。まさに古典主義的模索。
  • "LADeDeDa" (2009):Natureに掲載された盟友V・マッキンタイアと共作になるパロディ広告。
  • "Elementals" (2012):連作掌篇で、物質性をモチーフにした思弁的な文章。物語とエッセイのあいだにある。
  • "The Jackson Brothers" (2014):友人宅へ馬を走らせる道すがら出会った「ジャクソン兄弟」のひみつ。
  • "The Daughter of Odren"(2014):〈アースシー〉もの。最初は電子書籍で、そのあとThe Books of Earthsea (2018)にも収録。
  • "The Jar of Water" (2014):沙漠を舞台にした旅路。『現想と幻実』に訳出。)
  • "Calx" (2017):掌篇だけれども小説と言えるかどうかは難しい。どちらかというと辞世のpshyco-myth。
  • "Pandora Revisits the Kesh and Come Back with New Texts" (2017):Library of America版のAlways Coming Home: Author's Expanded Edition (2019)に収録された60ページの追加部分。
  • "Pity and Shame"(2018):いわゆる西部小説。主人公と同名の英国詩人がキーワード。
  • "Firelight"(2018):〈アースシー〉の見事なエピローグ。

ル=グウィン詩集一覧

物語だけでなくル=グウィンは詩も書き続けてきました。とはいえ日本語でその一端に触れられるのは、『ユリイカ(総特集:アーシュラ・K・ル=グウィン』2006年8月臨時増刊号に収められた伊藤比呂美さんとなかにしけふこさんの訳、それから長田弘さん『本という不思議』所収の訳くらい。
邦訳詩集もあってほしいけれど……

詩集原著の集めにくさを以前にぼやいていたら、2023年に叢書Library of Americaから、なんと故Harold Bloomが生前に編集を手がけていたとのことで、ル=グウィン全詩集が出ました。これまでの詩集に未収録だったものや詩についてのエッセイ・序文も含めた完全版です。なかには入手しづらい単行本もあったので、この1巻本の登場でかなり詩人ル=グウィンにも触れやすくなりました。

  • Ursula K. Le Guin: Collected Poems (2023):以下のリストにも挙げた詩集をほぼすべて含む、まさに全詩集。詩人ル=グウィンの全容が明らかになる1冊を歓迎します。

(ここからは全詩集が出る前の記述)もし編むとしたら、自選篇のあるFinding My Elegyを軸に、あとLate in the DaySo Far So Goodから取捨選択、という感じかな。
個人的には、自己出版のchapbooks以外は集めたので、以下はそのリスト。

  • Wild Angels (1975):最初の詩集で、小さなブックレット。詩集クラウドファンディングの際の成功のおまけで複製版が配布。
  • Walking in Cornwall (1976):英国コーンウォール旅行と小詩群。確かにコーンウォール地方は〈アースシー〉の風景に近いかも。もとはchapbookだけれど近年になって写真つきのペーパーバックが刊行。
  • Hard Words and Other Poems (1981):実質的な第2詩集。それまでに出ていたchapbooksの詩がまとめられたもの。わたしは「トランスレーション」という詩が好み。
  • Wild Oats and Fireweed (1987):第3詩集。地元や個人・女性というテーマが鮮明で、生活や人生に根ざした詩を書いていることが明確化された1冊。
  • Buffalo Gals and Other Animal Presences (1988):これはちょっと変わった構成で、動物に関係する短篇小説と詩を編集したもの。既出の詩もいろいろ。
  • Blue Moon Over Thurman Street (1993):ご近所さんの写真家Roger Dorbandと組んで制作した写真詩集。自分たちが住んでいるオレゴン州ポートランドのサーマン通りをモチーフにしたもの。あたたかみ。
  • Going Out with Peacocks and Other Poems (1994):第4詩集。自然をテーマとして「火水地風」の題がついた第一部の詩群が特徴的。
  • The Twins, The Dream: Two Voices (1996):アルゼンチンの詩人Diana Bellessiとの共作で、お互いに詩を選んで訳し合い、原詩と並べて〈双子〉にする試み。
  • Lao Tzu: Tao Te Ching: A Book About the Way and the Power of the Way (1997):自由訳『老子:道徳経』。上下81章を再解釈しながら明快かつ切れ味よく詩として完訳。第1章の冒頭はまさに〈アースシー〉世界の枠組みそのもので、独自の世界観構築に寄与している点も興味深い。
  • Sixty Odd: New Poems (1999):第5詩集。第2部「鏡のギャラリー」は、出会ってきた人々を詠う自伝的エピグラフ集とされつつも、どこか墓碑銘(エピタフ)を思わせる詩群。その詩が「つかむ」または「たどる」ことから始まると明かされる前書きも重要。
  • Selected Poems of Gabriela Mistral (2003):ノーベル文学賞を獲ったチリの詩人ガブリエラ・ミストラルの対訳詩集。5つの詩集+数篇が訳出されているので、かなりの分量。
  • Incredible Good Fortune: New Poems (2006):第6詩集。「詩を書いてから物語を書く」と前書きで述べるように、ほかの詩集に比べて物語性や虚構性の高い詩が数多く含まれている。
  • Out There: Poems and Images from Steens Mountain Country (2010):写真家Roger Dorbandと組んだ写真詩集の第2弾。今回はオレゴン州の山岳地帯が舞台で、その荒野や自然が霊感源となっているのがよくわかる。あと著者近影が本当におちゃめで素敵。
  • The Wild Girls: Plus... (2011):これもやや変則的な書籍で、(短篇集と紹介されることもあるが)実は短篇1作と小詩集、エッセイ2つとインタヴュー1つを組み合わせた小冊子。
  • Finding My Elegy: New and Selected Poems (2012):第7詩集。前半部がこれまでに出した詩本から摘まんだ自選詩集。後半部は「日々の諸科学」と題された新作篇。ル=グウィンの詩に触れるにはちょうどいい本。
  • Late in the Day: Poems 2010-2014 (2016):第8詩集。物語の筆を置いて詩とエッセイに専念していた時期のもの。自由かつ静謐。「アフロディーテへの讃歌」には3.11の影響がある。
  • So Far So Good: Final Poems: 2014-2018 (2018):亡くなる直前に推敲が終わったという最終詩集。クラウドファンディングで出版。ゆるやかな物語性を有した連作詩「ここに至るまで」や巻末の「西のはての岸にて」が印象的。

ル=グウィン未訳絵本一覧

邦訳のある『空飛び猫』シリーズ(原書では2023年にComplete Collectionがあらためて刊行)や『いちばん美しいクモの巣』以外にも実はいろいろあるので、手元にあるもののご紹介。

  • Solomon Leviathan’s Nine Hundred and Thirty-First Trip around the World, illust. by Alicia Austin (1988):擬人化キリンとヘビのコンビがふと船を見つけて海へと漕ぎ出し、水平線を目指します。もとは私家版で、あらためて挿絵が付されました。読後にわかる題が素敵。
  • A Visit from Dr. Katz, illust. by Ann Barrow (1988):インフルで寝込んでいる少女のもとへ猫先生が来る話。かわいいね。
  • Fire and Stone, illust. by Laura Marshall (1989):ユーモアファンタジー系の絵本。北からおそろしいドラゴンが飛んできて、村人たちはあわてふためき逃げ惑うのですが、そのドラゴンの様子がどうもおかしくて……
  • Fish Soup, illust. by Patrick Wynne (1992):個人的なお気に入り。親友同士である〈モハの考える男〉と〈マホの書く女〉のそれぞれのもとに不思議な子どもたちが現れる幻想譚。表紙画の通り今作では空飛びネズミが登場。白黒の挿絵もきれい。
  • A Ride on the Red Mare’s Back, illust. by Julie Downing (1992):おすすめ絵本。スウェーデンの定番土産ダーラナホース(木彫りの赤い馬)を題材にしたファンタジーで、小鬼(トロール)に弟をさらわれた少女がふしぎな赤い馬の力を借りながら救けに行きます。
  • Tom Mouse, illust. by Julie Downing (2002):いわゆるイソップ「田舎のネズミ」の変奏と思いきや、そこはル=グウィン、やはり旅があります。駅舎で育ったトムが列車に乗り、目にする景色、そして出会う旅の道連れ。絵は前著と同じアーティストで、物語性の映える画風です。

その他ル=グウィン情報

  • Worlds of Ursula K. Le Guin (2018):没後に公開されたドキュメンタリー映画。アメリカではDVDも発売中。NHKあたりで放送してくれないかしら。公式サイトは【こちら】
  • 題未定[ル=グウィンの伝記] (forthcoming):ティプトリーJr.の評伝を書いた作家ジュリー・フィリップスが執筆中。晩年のル=グウィンによく取材していました。今のところ2026年にVirago Pressから近刊とのこと。


ファンタジーのお仕事

映画俳優イーサン・ホーク執筆の英国15世紀コーンウォールを舞台にした騎士道小説『騎士の掟』。人生に大切な20の心得を騎士見習いとその師との逸話とともに綴る掌篇集。ハンディサイズな原書と近しいデザインとサイズでお届けします。また出版社ウェブサイトでは、昨年行ったコーンウォール取材をまとめた【ページ】もあります。
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クリーチャーデザイン指南書の新刊も久々に手がけました。基礎から学ぶ発想とスキル コツをつかめ! クリーチャーデザイン教本』。クリーチャーデザインの基本だけでなく、実際の制作過程も参考として収めた一書。何をポイントにして練り上げていったのかがわかります。
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月刊誌『ユリイカ』の2020年6月号「特集=地図の世界」にて、論考寄稿しました。
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月刊誌『ユリイカ』の2018年10月号「特集=図鑑の世界」にて、論考寄稿しました。
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月刊誌『ユリイカ』の2016年12月号「特集=『ファンタスティック・ビースト』と『ハリー・ポッター』の世界」にて、解説寄稿&翻訳担当しました。映画とご一緒にどうぞ。
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以前の訳書には、こういうものもありました。

  • テリル・ウィットラッチ『幻獣と動物を描く:精確な動物デッサンから生まれる空想上のキャラクター』マール社、2013.10
  • テリル・ウィットラッチ『幻獣デザインのための動物解剖学:絶滅種・恐竜を含むあらゆる動物の骨格と筋肉』マール社、2015.11
  • テリル・ウィットラッチ『幻獣キャラクターを創る:空想の生き物に命を吹き込む』マール社、2016.3


クトゥルーのお仕事

またH・P・ラヴクラフト作品のオーディオブックがパンローリングさまより全32本配信中。

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そして、これまで配信販売されていたその全32作品のなかから、テーマごとに数作ずつ収録、さらに購入者特典として未収録作品も無料DLできる朗読集CDとして3巻で5月23日発売!(価格は各巻1470円) ラヴクラフト・クトゥルフ入門にもどうぞ。購入はamazonもしくはオーディオブックの取扱のある書店にて!

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月刊誌『ユリイカ』の2018年2月号「特集=クトゥルー神話の世界」にて、評論寄稿しました。
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「ニャルラトホテプ」 → 読む

 H・P・ラヴクラフトのクトゥルー神話のひとつ。最初は別件で新訳をしたのですが(特定の声優さんを想定して翻訳されています)、そちらが頓挫したためフリー公開。



SFのフリー翻訳まとめ

『月世界旅行』(1902) → ニコ動で見る旧ページ

 ジョルジュ・メリエスによる、トリックを駆使したSF映画の嚆矢。世界で初めて「物語」と「シーン」を持った映画だと言われています。映画の誕生は一説によれば1895年ですから、誕生から7年目にして、このように不思議な映像が作られました。フランスの作品です。

『メトロポリス』(1927) → ニコ動で見る

 伝説的SF映画。監督のフリッツ・ラングがクリスマスシーズンのニューヨークを訪れたことが発想源になったとか。これもまたジャズエイジの表象のひとつ。映像は1927年公開のアメリカ編集バージョンです。12年越しの宿題でした、お疲れ様でした。(なお音声の乱れに要注意;開幕音割れです)

『RUR――ロッサム世界ロボット製作所』 → 読む

 チェコの人カレル・チャペックのSF戯曲。ロボットという言葉が初めて世の中に登場した作品です。4幕物で、訳すのにほぼ一週間。

『Under a Seering Sky[焼けつく空の下で]』 → 遊ぶ

 SFゲームブックを訳してみました。元はポルトガルのひとが作ったものです。Javascriptが動くのなら、スマホでもプレイできると思います。音も鳴ります。ちょっと重いのでご注意ください。正解ルートで1プレイが15分~30分くらいでしょうか。暗号は数種類ありますが解き方は同じです。セーブ機能はありません(ゲームオーバー時には翻訳時に付加した左下のリセットを押してね)。各種クレジットは右上の?を押すと出てきます。バグ採りと誤訳つぶしはあんまりできてません。



怪奇系のフリー翻訳まとめ

『カリガリ博士』(1919) → ニコ動で見る旧ページ

 不思議なセットと、不思議な話。一種のホラーでありながら芸術的な映像は、のちの映画や美術に大きな影響を与えました。ドイツ表現主義映画の古典。

『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922) → ニコ動で見る旧ページ

 ドイツのF・W・ムルナウの吸血鬼映画。ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』を題材にしたが、著作権継承者の許可がもらえなかったため、登場人物の名前を変えて公開。しかし著作権継承者から訴えられ敗訴。この映画の著作権の剥奪とフィルムの破棄が命じられたが、裏でこっそりと生き残り、ブラム・ストーカーの著作権が切れたと同時にリバイバル。数奇な経緯をたどった名画。

『処刑の話』 → 読む

 ドイツの大人気作家フランツ・カフカの作品を原典から訳したもの。初出は以前やってた電子同人誌。

『道理の前で』 → 読む

 同じくフランツ・カフカの作品。邦題では「掟の門前」とかが有名。

『家のあるじとして気になること』 → 読む

 同じくフランツ・カフカの作品。オドラデクという奇妙な生き物(?)についての話。ちなみに「処刑の話」「道理の前で」「家のあるじとして気になること」の3つで個人的に「からくり3部作」と読んでいます。

『ポオ異界詩集』 → 見る

 エドガー・アラン・ポオの詩のうち、異界を扱った「黄金郷」「不安ノ谷」「海没都市」「妖精界」「幻影宮」「夢幻境」「ひとり」の七篇を収める小詩集。エドマンド・デュラックの挿絵が素敵ですよね。元はtwitterで毎夜翻訳ツイートをしていたのが発端。当時のtogetterまとめはこちら(多少のコメントつき)。青空文庫版では結構改稿してます。



死蔵しているもの

 10年以上前に訳したまま死蔵しているオーソン・ウェルズ「マーキュリー・ラジオ劇場」の『火星人襲来』とか『ドラキュラ』とかの翻訳台本があるので、どうにかしたい(読み物としても結構面白い)。
 マーキュリー・ラジオ劇場についてはもう1作くらい訳したいものがあって、それと合わせれば本1冊分の分量にはなりそうなので、ご関心のある出版社さんはご連絡ください。



いろいろ考え中

ル=グウィンの未訳ものは、待っていても出ないので、自分から頑張ることにしました。まだまだもう2~3冊は何とかしたい。

一方でクトゥルー絵本とかホラー絵本とかの翻訳企画は全然通らなくて険しい道すぎるわけですが……

フリー絵本でSF翻訳を追加したい計画が前からありますが、いつになるかな。