サンタクロースがどこに住んでいるか、ごぞんじですか?
実は、ニコニコ谷というところに住んでいるのです。そこでサンタクロースはおおぜいの
まずはリルです。リルというのは花の妖精のことで、自分にわりあてられた一しゅるいの花のおせわをしています。花というものは、根っこからごはんを食べるのですが、リルは花がごはんを食べられるよう、土の中にごはんをよういしたり、花の色をつける
次はヌックです。ヌックというのは木の妖精のことで、いつもは木のおせわをしています。ふだんは、森のまだ若い木に水をやってうまく育つようにするのがおしごとですが、そのしごとはとてもたいへんなので、ヌックというヌックはみんな、こしが曲がってしまったということです。それにくわえて、世界中のどうぶつたちの見はるというしごともあります。ヌックの顔や身体には毛がいっぱい生えていて、遠くから見てももじゃもじゃに見えます。
またピクシーという妖精もいます。ピクシーはもともと小さい妖精の中でも、いちばん小さい妖精たちです。緑のぼうしと服を着ていて、おどりがとてもうまい妖精で、手先もきようなので、いろんな仕事をすることができます。
いちばんわたしたちになじみがあるのは、フェアリーでしょう。あの背中に羽の生えた妖精のことです。金色のかみの毛が肩までのびていて、うすい布でつくったスカートをはいています。そもそもフェアリーは人間をまもるのがおしごとですから、わたしたちも自然とフェアリーのことをよく知っているわけですね。
ほかにも、土の妖精であるノームや、小さな女の子の妖精であるニンフなどが近くの森に住んでいます。
ここでニコニコ谷のほうにお話をもどしましょう。
このニコニコ谷にはお城があります。とても大きくて広いお城で、ここでサンタクロースはみんなのためにクリスマスプレゼントをつくっています。このおもちゃ工場ではたらくのは、おおぜいの中からえらびぬかれた妖精たちで、一年の終わりごろからその次の年のクリスマスまで、ひっきりなしにはたらいています。
そうそう、どうしてこの谷がニコニコ谷というのか、話すのをわすれていましたね。それは、この谷にいるもの、あるものみんな、楽しく幸せにしているからです。妖精たちだけではありません。小川はいつもはしゃいでいて、岸のあいだではねては、くすくす笑っています。風は木のあいだをすりぬけながら、楽しそうに口笛をふいているし、お日さまの光はやわらかい草の上でかろやかにおどっています。スミレなどのいろんな花は、草のおうちの中から空を見上げて、にっこりほほえんでいます。ニコニコするためには幸せでなくちゃいけませんし、幸せであるためには、楽しいことがむねいっぱいになければなりません。というわけで、サンタクロースの住むニコニコ谷には、楽しいことがいっぱいあふれているのでした。
ではニコニコ谷を空から見下ろしてみましょう。
いっぽうには、大きなバージーの森が広がっています。そのはんたいがわには、
さて、ここからお話がはじまります。
みなさん、サンタクロースのおじさんは知っていますね? 世界の子どもたちを幸せにしようと、毎日がんばってるサンタクロースをわるく思う人なんて、この地球上にはいないはずでした。だって、この何千年ものあいだ、サンタクロースはどこへ行っても、みんなの気持ちを考えて、みんなのためにがんばってきたし、みんなもそれに
でも、あの山のどうくつに住んでいる悪魔たちにとっては、サンタクロースがにくたらしくて、その思いが日に日につよまっていくのでした。子どもたちを幸せにしているという、そのひとつのことがにくたらしくてたまらないのです。
悪魔のどうくつは、ぜんぶでいつつあります。大きな道をすすんでいくと、まずひとつめのどうくつに行きあたります。そのどうくつがあるのは、ちょうど山のふもと。入り口はきれいなおうぎ形になっていて、いろいろかざりがついています。その中には、ジコチューという悪魔が住んでいます。その
話をもとにもどしますと、このどうくつの悪魔たちは、みんなそれぞれの
さいしょにジコチューがこういいました。
「だんだんオレのところに来るやつが少なくなってきてるんだよ。それというのも、あのサンタクロースが子どもたちにクリスマスプレゼントなんてものをくばりやがるからだ。そのせいで、子どもは幸せになるし、サンタクロースなみに心がひろくなってきてやがる。そのおかげで、ジコチューなやつがへって、オレのどうくつはさっぱりだ。」
するとネタマシーがうなずきました。
「そうなんだ、オレもこまってるんだよ。あの小さいやつらはサンタクロースのおかげで、すっかり心がみたされちまって、甘いことばをささやいても、ちっとも人をネタミやしないんだ。」
ニクシミーも声をはりあげました。
「そうなったら、オレだってめいわくするんだよ! ジコチューやネタマシーのところに子どもが来ないとなると、オレのどうくつはその奥にあるんだから、オレのところにも子どもが来ないってことになる!」
ミンナテキーもそれにつづいて、
「なるほど、お前のところに来ないとなると、さらにオレさまのところにも来なくなるわけだな。」
さいごにハンセーが、
「ワタシにしてみても、キミらのところに子どもが来ないなら、ワタシのところへ来るひつようもなくなる。ということは、キミらとおなじように、ワタシも子どもからはとおい
そのとき、とつぜんネタマシーがさけびました。
「これもみんな、あのサンタクロースってやつのせいだ! あいつはオレたちのやることをいまにもぶちこわしてしまうぞ! すぐに何か手をうたなきゃ。」
ネタマシーのいけんに、みんなうなずきました。でも、どういう手をうつかは、べつのもんだいなので、なかなかひとつに決まりませんでした。サンタクロースがニコニコ谷の中で一年中はたらいているということは、みんな知っていました。そこでクリスマスイヴにくばるプレゼントをつくっているのです。
まずはとにかく、サンタクロースをそそのかして、自分たちのどうくつに連れてこよう、ということが決まりました。もしかすると、そのあとサンタクロースをあの穴のところにひっぱりだして、ならくの底につきおとすつもりなのかもしれません。
そういうことで、つぎの日、サンタクロースがお手つだいの妖精たちといっしょに、せっせとおもちゃ作りにはげんでいると、ジコチューがふらりとやってきて、サンタクロースに話しかけました。
「そのおもちゃ、ほんとにすばらしい作品だなぁ。そんなにすごいものを、どうして自分ひとりのものにしないの? もったいなくない? あんなうるさいガキやぷりぷりしてるムスメどもにわたしたら、あっというまに、このすばらしい作品をこわされちゃうよ!」
すると、サンタクロースはあごひげをさすって、目をきらきらとかがやかせながら、甘いことばをささやく悪魔のほうをじろりと見つめました。
「たわけたことをおっしゃい! どんな男の子も、どんな女の子も、わしのプレゼントをもらったら、ちゃんとおとなしくしよるわい。一年のうちたった一日でも、子どもを幸せにできるというなら、わしはそれだけでまんぞくなのじゃ。」
こういわれて、ジコチューはどうくつへ帰りました。するとみんなが待っていたので、ジコチューはこういいました。
「だめだった、サンタクロースって、ちっともジコチューじゃないんだ!」
つぎの日はネタマシーがサンタクロースのところへ出かけていって、こうさそいかけました。
「おもちゃ屋ってさ、キミのつくるおもちゃに負けないくらいすばらしいおもちゃが、ほんとうに山ほどならんでるよね。そうやって、キミのじゃまをしてるのさ! なんて、はらの立つやつらだ! しかも、あいつらは
でも、サンタクロースはそのさそいにはのりませんでした。
「わしは一年に一回しか子どもたちにおもちゃをやることができん――それも、クリスマスの夜だけだ。それというのも、子どもはおおぜいいるのだが、わしはひとりしかおらんからな。みんなのためにおもちゃを作るとなると、時間がかかるんじゃよ。それに、わしは子どもが好きで、子どもによろこんでもらいたいからおもちゃを作っているんであって、こんなささやかなプレゼントに対して、お金をもらうなんてとんでもない。しかし、子どもはクリスマスだけじゃなくて、一年中何かあそんどらんといかん。だから、おもちゃ屋もひつようだし、なによりおもちゃ屋も子どもを幸せにしてるじゃないか。わしはおもちゃ屋も好きだし、おもちゃ屋がうまくいけば、わしもうれしい。」
こうして、悪魔のたくらみはまた
「よう、サンタ! じつは、お前にわるい知らせがあるんだよ。」
するとサンタクロースはこういいました。
「そうか。いい子なら、そのままお帰り。わるい知らせっていうのは、むねの中にしまって、口に出しちゃいかんのじゃよ。」
「でも、これは言わなきゃならないことなんだよ。じつはだね、この世界には、サンタクロースを信じてない人が、ほんとうにたっくさんいるんだぜ。そんなやつがいると知ったら、お前だってニクタラしく思うだろ? だって、お前にたいして
「そんなの、ささいなことじゃ。」
「いやいや、ほかにも、お前が子どもを幸せにするからむかつくっていうやつらとか、お前のことを頭のおかしくなったジジイっていうふうに鼻でわらうやつだっているんだ! お前がそうやって自分のかげ口をたたいているやつをニクンで、その仕返しをするっていうのが、いちばん正しいことじゃないのか?」
そこで、サンタクロースはきっぱりといいかえしました。
「なぜニクマなきゃならんのじゃ! その人たちがそういうことをしたとしても、わしは別になんとも思わんわい。ただ、そのことによって、自分と自分の子どもを不幸せにしてるだけじゃ。せつないことじゃのう。そういう人たちには、たとえ何がどうあろうとも、いためつけるんじゃなくて、何かその人の役に立ってやりたいものじゃ。」
というわけで、悪魔がどんなふうにゆうわくをしても、サンタクロースはいっこうになびきませんでした。それどころか、サンタクロースはとてもかしこい人でしたから、悪魔たちがいたずら目的でやってきているということも、ちゃんと見ぬいていました。サンタクロースが元気よくわらうのを見て、悪魔はどうして悪い心をもたず、笑っていられるのかとてもふしぎに思いました。けれど、自分たちのたくらみが失敗におわった、ということははっきりわかりました。そこで、悪魔たちは甘いことばなんていうまわりくどいことはやめて、力ずくでいくことにしました。
サンタクロースがニコニコ谷にいるかぎり、どういう方法をつかっても、サンタクロースには手出しができません。なぜなら、たくさんの妖精やリル、ヌックたちがサンタクロースをまもっているからです。でも、クリスマスイヴの日には、たくさんのプレゼントを子どもにあげるために、ひとりトナカイに乗って、世界中をかけめぐります。ちょうどそのときが、悪魔たちにとってぜっこうのチャンスです。そこで、悪魔たちは計画をねって、クリスマスイヴが来るのを待っていました。
クリスマスイヴの日、空には大きなお月さまが出ていて、明るくかがやいていました。その下では、雪がカチカチにこおって、きらきら光っていました。サンタクロースはむちをぴしっとしならせて、トナカイを走らせていました。ニコニコ谷から世界へ向かっているところでした。大きなソリには、おもちゃの入った大きなふくろがめいっぱいつまれていました。サンタクロースはうんてん席にすわって、ニコニコわらいながら口ぶえをふいていました。サンタクロースにとっては、一年のうちでこの日がいちばん幸せでした。お城でつくった小さなたからものを、子どもたちにとどけるたいせつな日なのです。
今夜もいそがしくなるな、とサンタクロースは思いました。口ぶえをふいて、声をはりあげ、むちをしならせながら、自分のことをまちのぞんでいる村や町、都市のことを考えていました。これだけのプレゼントがあれば、世界をまわって、子どもたちみんなを幸せにできる、と思いました。トナカイは子どもたちが何をほしがっているのかちゃんとわかっていました。トナカイはいちめん雪のふりつもった地面すれすれのところを、うまく走りぬけていきました。
そのとき、へんなことがおこりました。いきなりロープが月明かりの中、ひゅうっと飛んできて、その先についていたわっかがサンタクロースのからだにすっぽりはまって、ぎゅっとしめあげてしまいました。そして、そのまま強い力でひっぱられて、動いたり声を出したりするひまもなく、ソリから投げ出されて、雪だまりの上に頭からつっこんでしまいました。トナカイは気づかずに、おもちゃのふくろをのせたまま走りつづけ、やがてすがたが見えなくなって、走る音も聞こえなくなってしまいました。
サンタクロースはいきなりのことにしばらくわけがわかりませんでした。気がしっかりしてきたころには、悪魔によって雪だまりの中から引きずり出されて、かたいロープでからだのまわりをぐるぐる巻きにされていました。
それからサンタクロースは山につれていかれて、ひみつのどうくつの中へおしこまれました。にげださないように、サンタクロースはごつごつした岩のカベにクサリでつながれてしまいました。
「うひゃひゃひゃひゃひゃ!」
と悪魔たちはわらいました。それはもううれしくてうれしくて、おたがいの手をとりあってよろこびました。
「今ごろ、子どもたちはどうしてるだろうな? 朝になってみると、くつ下の中にも、クリスマスツリーのところにも、プレゼントがない! そうしたら、いったいどうなるのか見ものだぜ。泣きだす? あばれだす? そんでもって、朝から親におしおきをされるわけさ。そして、オレたち、ジコチュー、ネタマシー、ニクシミー、ミンナテキーのどうくつの前に、みんなみんな行列をつくるってわけなのさ! バンザイ、オレたちどうくつの悪魔にバンザイ!」
でも、今年のクリスマスイヴは、サンタクロースだけじゃなかったのです。ソリの中に、ちょうど妖精をお手つだいとしてつれてきていたのでした。リルのナターと、ヌックのピーター、ピクシーのキルターに、ウィスクという小さなフェアリーがいっしょだったのです。よにんはサンタクロースがとりわけ気にかけている妖精たちでした。この妖精たちなら、きっと子どもたちにプレゼントをとどけるお手つだいをしてくれるだろうと思ったのです。でも、ご主人さまがソリからいきなり引きずり出されてしまったときには、さむいさむい風があたらないように、みんなうんてん席の下にかくれていたのでした。
ですから、妖精たちはサンタクロースがいなくなったことに、しばらく気がつきませんでした。やがて、サンタクロースの明るい歌声がきこえてこないことが、妖精たちにもわかりました。世界をまわっているときにはいつも口ぶえをふきながらうたっているのに、今日にかぎってこんなにしんとしているのはおかしい、と思いました。
ウィスクがうんてん席の下からあたまを出すと、サンタクロースはいませんでした。トナカイにめいれいする人がだれもいないのです。
「とまって!」
ウィスクが声をはりあげると、トナカイはすなおにいうことを聞いて、だんだんスピードをゆるめていって、おしまいにはぴたりと止まりました。
ピーターとナター、キルターのさんにんも、うんてん席の下から出てきました。ふりかえってみると、ソリのつくったあとがずっと向こうのほうまでつづいているので、サンタクロースからずいぶんはなれてしまったようです。
「どうすればいいかな?」
ウィスクはみんなに聞きました。たいへんなことになったので、今までやんちゃしていたウィスクも、すっかり元気のない顔になっていました。
「今すぐにひきかえして、ご主人さまをさがしたほうがいいのではないでしょうか。」
リルのナターがよく考えてから、そういいました。
「いやいや。」
とヌックのピーターがわって入りました。ピーターは何かたいへんなことがおこると、いつもたよりにされるしっかりものでした。
「もし、ぼくらがもたもたしたり、ひきかえしたりしたら、時間がなくなって、朝が来るまでに子どもたちみんなにプレゼントをわたせなくなってしまうよ。それは、サンタクロースがいちばん悲しむことなんじゃないかな。」
すると、いつもはしゃべらないキルターが、こういいました。
「きっと悪いやつらにさらわれたのかと。ねらいは子どもを不幸せにするためでしょう。だから、何よりもまず、わたしたちはサンタクロースのかわりに、このおもちゃをちゃんと子どもたちのところにとどけなくてはなりません。そのあとで、ご主人さまをさがして、ぶじに助ければいいのでは。」
その考えにみんななっとくしたので、すぐにみんなはうごきだしました。ヌックのピーターがトナカイに声をかけると、トナカイはそのことばを聞いて、ふたたび走り出しました。山や谷をこえて、森やのはらをぬけて、ようやく家のあるところまでやってきました。家の中では、子どもたちがぐっすりねむっていて、明日の朝プレゼントを見つけてよろこんでいる
妖精たちにとっては、たいへんむずかしいおしごとでした。といいますのも、これまでサンタクロースのお手つだいはなんどもやったことがあるのですが、いつもはご主人さまがあれをしなさい、これをしなさいといってくれるので、サンタクロースの考えていることのとおりにできたのです。でも今日は、自分たちでどうするか考えて、おもちゃをくばらなければいけません。そしてやっぱり、サンタクロースほどには子どものことを知らなかったので、妖精たちはおかしなまちがいをいくつかしてしまいました。
マミー・ブラウンはお人形さんをほしがっていたのですが、妖精たちはドラムをプレゼントしてしまいました。もちろん、マミー・ブラウンはどうしていいかわかりませんでした。チャーリー・スミスは、外であそぶのが大好きな男の子で、足がよごれないように新しいゴム長ぐつをほしがっていたのですが、妖精たちはソーイングセットをプレゼントしました。それを見たとき、チャーリーは思わずかっとなって、つい「サンタのいんちき!」とさけんでしまいました。
もしたくさんまちがいをしでかしてしまったら、それこそ悪魔たちの思うつぼで、子どもたちを不幸せにしてしまうところでしたが、さいわい、妖精たちはサンタクロースなしでもいっしょうけんめい、せいいっぱい考えて、サンタがいつもしていたことを思い出して、その通りにがんばったので、こんなたいへんなときでも、まちがいは思ったより少なくてすみました。
できるだけ早くおわれるようにどりょくしたのですが、それでもプレゼントをぜんぶとどけきらないうちに、空が白みはじめました。トナカイがニコニコ谷に帰ってきたのは、いつもの時間をずいぶんこえてしまって、森からお日さまがあたまをのぞかせて、少し明るくなったころでした。こんなに遅くなったのは、何千年もの間でも、はじめてのことでした。
トナカイを小屋に入れたあと、妖精たちはご主人さまをどうやって助け出すかということについて考えました。まずはじめに、サンタクロースの身になにがおこって、今どこにいるのか、それを知ることがたいせつだ、ということになりました。
そこでフェアリーのウィスクが、妖精の女王のところに行きました。妖精の女王のおすまいは、バージーの森の奥深く、ちょうど森のまんなかあたりにありました。おすまいにつくと、ほどなく女王はわるい悪魔たちのことをみんな教えてくれて、どうやって悪魔たちがサンタクロースをゆうかいしたか、そしてそのねらいは子どもたちを不幸せにすることであることを、せつめいしてくれました。さらに女王は、なんでも協力するといっていれたので、ウィスクは心強くなって、ナター、ピーター、キルターのさんにんのいるところへとんで帰りました。そしてよにんで話しあって、てきの手からサンタクロースをとりもどす計画を立てました。
いっぽう、サンタクロースは、つかまったその晩、ずっと元気がありませんでした。妖精たちが自分たちで考えてどうにかしてくれると信じていましたが、やっぱり心配なのか、不安そうな感じがときどき、そのやさしそうな目にちらちらと見えかくれしていました。プレゼントをまっている子どもたちががっかりするようなことになったらどうしよう、と考えてしまうのです。
悪魔たちはかわるがわるサンタクロースのみはりをして、みうごきのとれないサンタクロースにひどいことばをかけて、いじめることもわすれませんでした。
クリスマスの朝がすっかり明けきったころ、ミンナテキーがみはりにやってきました。ミンナテキーのことばは、ほかのどんな悪魔たちよりも、心にぐさりとつきささるものでした。
「おいサンタ、もう子どもたちがおきはじめるぞ! やつらがくつ下を見てみると、なんとプレゼントは入っていないのさ! ひゃひゃひゃひゃ! そうしたら、やつら、ぶつくさいうだろうな、わめくだろうな、おこってじだんだふむだろうな! 今日のどうくつは、まんいんにちがいないぜ、サンタのじじい! どうくつは子どもでいっぱいになるんだ!」
そういわれても、ほかの悪魔のときとおなじように、サンタクロースはなにもいいませんでした。つかまってしまって、おちこんでいる。それはじじつです。でも、まだ心は負けていませんでした。サンタクロースが、自分のことばに、ちっとも耳をかさないことに気がつくと、ミンナテキーはほどなくどこかへ行ってしまいました。かわりに、ハンセーがやってきました。
このさいごの悪魔は、今までの悪魔とはちがって、人の好かないやつではありませんでした。やわらかであかぬけしたものごしで、声もおちついてやさしい感じでした。ハンセーはどうくつに入ってくると、こういいました。
「うちの兄弟は、ワタシをしんようしてないみたいです。もう朝になってしまいましたからね。いたずらももうおわりです。そしてあなたは、来年のクリスマスイヴまで、子どものところに行くことができないんですね。」
サンタクロースはもう元気をとりもどしていました。
「その通りじゃ。クリスマスイヴはおわった。プレゼントをくばりはじめて何千年にもなるが、子どもに会えなかったことははじめてじゃよ。」
するとハンセーはすまなさそうに、小さな声でこういいました。
「子どもたちは、ほんとうにがっかりしているでしょうね。しかし、もうどうすることもできないのです。こうして生まれた悲しみが、子どもたちをジコチューにして、人をネタマしく思うようになり、人をニクムようにするでしょう。もし今日、子どもたちが悪魔のどうくつにやってきたら、ワタシはそのうちに何人かでも、このハンセーのどうくつにやってきて、ハンセーできるように、がんばってみたいと思います。」
そこでサンタクロースは、こうききました。
「つかぬことを聞くが、あなたはもしや……」
「名前はハンセー、ですからね。今でも、あなたをさらう手つだいをしてしまったことを、ハンセーしています。もちろん、おかしてしまったまちがいは、とりかえしのつくものではありません。でも、まちがいをしてしまったとしても、そのあとで、ハンセーすることはできるのです。何もわるいことをしなければ、ハンセーすることはないのですが……」
「なるほど。悪のゆうわくをふりきった人は、そもそもあなたのどうくつへ来るひつようはないというわけじゃな。」
「そうです、だいたいのばあいは、そうです。でも、あなたは……あなたは、何もわるいことをしていないのに、ワタシのどうくつへ来ようとしていました! ほんとうなら、ゆうかいなんてことをした、ワタシたちがはじるべきだったのに、あなたは、自分のことのように、自分がわるいかのように、心からくやんでおられました。ですから、ワタシは、あなたがワタシのどうくつへ来なくてもいいように、ここから外へ出ていってもらおうと思います。」
そのことばを聞いて、サンタクロースはたいへんびっくりしました。しかし、よく考えて、それこそハンセーのほんとうの気持ちなんだとわかりました。すぐにハンセーはサンタクロースをしばっていたロープをほどきはじめ、カベにつながれていたくさりも取り外しました。ハンセーは長いトンネルの中、サンタクロースのあんないをしました。ふたりがたどりついたところは、ハンセーのどうくつでした。
ハンセーはサンタクロースにいいました。
「どうかゆるしてください。お気づきかもしれませんが、ワタシは、その、わるいことをしようと思って、あなたをゆうかいしたのではないのです。ただ、ハンセーということを、わすれてほしくはなくて……。ワタシは、この世界のためになることを、いいことを、たくさんやりたいと、そう強く思っているのです。」
そういうと、ハンセーはドアを開けました。すると、目の前から光があふれてきました。サンタクロースはここちよい空気のにおいを感じて、むねがいっぱいになりました。
サンタクロースはハンセーにむかって、やさしい声で話しかけました。
「わしは、きみをわるいやつだなんて思っとらんし、テキだとも思っとらん。わしは今、ちょうどこう考えていたところなんじゃ。きみがいなければ、この世界はどんなにやるせないところになっていたんだろう、とな。」
サンタクロースは外のけしきを見て、こういいました。
「ああ、いい朝じゃ。」
そして、ハンセーの顔を見て、
「メリークリスマス!」
といいました。
サンタクロースは明るい朝におはようというために、外へ歩いていきました。しばらくすると、やさしい口ぶえをふきならしはじめました。いっぽいっぽふみしめるように歩きつつ、サンタクロースはニコニコ谷のわが家へと向かいました。
ちょうどそのとき、たいへんおおぜいの妖精たちが、山の雪をふみしめて
この行進のいちばん前には、ウィスク、ピーター、ナター、キルターのよにんがいました。このよにんが、サンタクロースをたすけるために、そして大好きな子どもたちからサンタを取り上げた悪魔たちをこらしめるために、これだけの妖精をあつめてきたのでした。
妖精たちは、見た目はやさしくて、おとなしそうでしたが、心のなかではすごくおこっていて、ものすごい力がかくされているのでした。もし、このおそろしい行進に悪魔がであったら、きっととんでもないことになるにちがいありません!
でも、その行進の向かうさきをごらんください! あのサンタクロースが力強くこちらへ歩いてくるのが見えます、サンタクロースがたのもしい妖精たちのところへ帰ってきたのです! ふさふさとしたひげが風にたなびき、きらきらした目が、妖精たちが自分を助けようとしてくれていたことによろこんで、かがやいています。
妖精たちはうれしくて、サンタクロースのまわりにかけよりました。ぶじに帰ってきたことをよろこんで、妖精たちはみんなおどりました。サンタクロースはそのあいだ、みんなになんどもお
サンタクロースは、妖精たちに向かってこういいました。
「もう、悪魔をさがすひつようはない。この世界には、彼らは彼らで、いばしょというものがあるのじゃよ。それはけっして、なくなったり、こわしたりできるようなものではない。それは、たいへんざんねんなことじゃけどな。」
といったサンタクロースは、何か深く考えこんでいるようでした。
それからフェアリーやヌック、ピクシーやリルたちは、みんなでサンタクロースをお城までつれていって、よにんのお手つだいに、れいの夜のできごとを話させました。
ウィスクは自分のからだを見えなくして、世界の子どもたちが、このすばらしいクリスマスをどうすごしているのか、確かめにとんでいきました。ウィスクが帰ってきたころには、ピーターがサンタクロースに、みんなでがんばっておもちゃをくばったという話をしおわったところでした。
ウィスクはサンタクロースにこういいました。
「ぼくたち、ほんとうにちゃんとやったんですよ。だって、朝になっても、不幸せな子どもなんてほとんどいなかったんですから。でも、もうつかまったりしないでくださいね、ご主人さま。またぼくたちがプレゼントをくばらなきゃなんないなんてことは、もうこりごりです。」
それからウィスクはちょっとしたまちがいをしてしまったことを、みんなしゃべりました。自分たちのまちがいに、世界をまわってみてはじめて気がついたのです。それを知ると、さっそくサンタクロースはチャーリー・スミスにはゴム長ぐつを、マミー・ブラウンにはお人形さんをおくりました。それでおちこんでいたふたりも、幸せになることができました。
今ごろ、あのいじわるなどうくつの悪魔たちはどうしているでしょうか? 考えに考えたサンタクロースのゆうかいが失敗におわったことがわかると、悪魔たちはおこって、とてもくやしがりました。だって、クリスマスの日はほんとうに、だれもジコチューになったり、人をネタマしく思ったり、ニクンだりする人はいなかったのです。そして、子どもたちの大好きなサンタクロースには、たくさんのたのもしいお友だちがいて、サンタクロースのじゃまをしようとしてもむりだということがわかったので、悪魔たちはそれからにどと、クリスマスイヴの日にプレゼントはこびのじゃまをしようとは考えなくなりました。