おひさまのたまご

SOLÄGGET

エルサ・ベスコフ Elsa Beskow

おおくぼ ゆう[やく]






 むかし あるところに ようせいの おんなのこが おりました。 すまいは もりにある きのうろ。 だいすきなのは おどること。 はるに おどるのが 〈ようこそ おひさま〉、 あきに おどるのが 〈もみじ ぐるぐる〉、 それから ふゆが 〈しらゆき しんしん〉、 いつも さいごには ねむくなって きの おうちまで ふらふら、 そのあと すやすや。


 ところが なつは もりを あちこち とびはねて みてまわるのが たのしくって、 だから ようせいちゃんも あんまり おどりません。
 ようせいちゃんは もりの ことりたち みんなと とっても なかよし。 ふと めに はいった ちいさな たまご、 すとんと すから したの こけまで おちてきたのですが、 かかえて おおいそぎで よじのぼって ははどりに おとどけ。 そんなことも あって ようせいちゃんは ことりさんたちの だいの おきにいり、 とびきりの おうたも きかせてもらえます。




 あるひ ようせいちゃんが もりを さんぽしていると、 めに とびこんできたのが なにやら こがねいろの おおきくて まるいもの、 こけのうえに ちょこん。
「わっ、 なんて おおきな たまご! いったい どこから きちゃったの?」と おもいまして、 まうえを のぞくと  はるか そらたかくに くもの きれまが きらきら。「あっ、 あたし わかった。 かわいそうに おひさまが たまごを おっことしちゃって、 あいだに くもが あるから みつけらんないんだ!」
 というわけで ようせいちゃんは ぴょんぴょんと このだいじけんを おともだちの ボックリへ しらせに かけてゆくのです。




 ボックリは いけすかない おとこのこ。 えだに しがみついていて、 ようせいちゃんを みかけると まつぼっくりを なげつけるものですから、 すってんころりん。
「おまえって ほんと わるがきだな!」と ようせいちゃんも いらいら。「こんどまた なにか したら、 ネコゼに いいつけてやる!」
 ネコゼじいさんは もりを まもっている こびとさんで、 ボックリが おそれる ただひとりのひと。
「つげぐちなんて ひきょうだぞ、 ひきょうだぞ!」と さけぶ ボックリ。
「ええ、 だから しないでいてあげる。 でも あたしの ひみつは おしえてやんないんだから! いーだ、 ざんねんでした!」
 と いいのこして、 ようせいちゃんは そこから スキップ、 そこで あわてて きから とびおりる ボックリ、 あとを おいかけます。 ついでに もっていくのが とがった きのとげに くさのくき、 これさえ あれば ようせいちゃんに できたての きのみつを すってもらえますから、 たぶん なかなおりが できると ふみまして。 でも ほんとは きに あなを あけては いけないのです、 ネコゼが だめだと いっていましたから。




 ようせいちゃんが まっすぐ むかったのは 〈けらけらガエル〉のところ、 いけの ほとりに すんでいました。 なんにでも わらうから そういう おなまえで、 ちいさな ごはんやさんも していましたから、 おみせの なまえも おなじく 〈けらけらガエル〉。 せきに ついていたのが おひるごはんに きた カタツムリと イモリ、 それから けらけらガエルの おともだち まんぷくガエルも ちょんと すわって はこばれるのを まっていまして、 そこへ ようせいちゃんが ぴょんぴょん やってきたのです。
「ようせいちゃん、 とれたての うみいも、 みずくさの たたきは いかが?」と あいそのいい けらけらガエル。「あら、 それとも さねのほうが いいかしら?」
「おかまいなく、 あたし おなかは いっぱいなの、 だって けさ カタバミを まるまる たべたんだもん。 それよりも だいだいだいっじけんを しらせにきたの! おもってもみないこと! なんと おひさまの うんだ たまごが、 もりの どまんなかに おっこちちゃったの!」
 これが けらけらガエルには すごく おもしろいことに おもえましたから、 ふきだしたのは いいのですが、 のどが つまりそうになってしまって まんぷくガエルに せなかを たたいてもらう はめに なりました。


ごはんやさん けらけらガエル
ちゅうい!
おきゃくさまどうしで
ともぐいしないこと


 さて ようせいちゃんが みせようと さきにたって おひさまのたまごまで すすんでいくなか、 うしろから さらに どんどん ぞろぞろ。 ボックリも そのおともだちの ツレも おいついて、 みんなが みんな おひさまのたまごに きょうみしんしん。 はたして まのあたりにした みんな、 やっぱり おどろきを かくせません。
「ぱっと たまごを かえす やりかたって ない? そうしたら おひさま そのものが あたしたちのもの、 このもりも ずっと あかるいし。」と ようせいちゃん。
 そこへ もみのきから ながめていた フクロウが。「ほっ、 おめでたいことだ。 ほっほっほ、 そしたら わたしゃ ひっこしだな!」
「ってことは、 そいつのなかに ひが あるのか。 だって おひさまって からだのなかに ひが あるんだろ。」と いったのは ボックリ。
「こんなところに あつまって なにごとじゃあ!」たずねたのは ネコゼじいさんです。 のろのろと できるだけ いそいで つえを つきながら やってきたのでした。
「おひさまのたまごだとさ。」と こえを はる ボックリ。
「ほっほっほ、 たちまち もりが おおかじだな。」と フクロウ。
「なに、 ならば ただちに ふせがねばならんな。」と ネコゼ。




「いちばん いいのは かえッ、 かえッ、 かえッ……」
 けらけらガエルが いおうとしたのは ―― いちばん いいのは かえすとき みずに つけること、 なのですが ちょうど そのとき ふと おもったのです。 おひさまの おこさまが かえったときに みずのなかでは ぼこぼこ わきたってしまうって。 なので ちからのかぎり おおわらい。
「なにが おかしいのだ。」いやな かおする ネコゼ。「ちからを あわせよ、 さすれば たまごを みずのなかまで ころがせようて!」
「でもさ からが ほら ぜんぜん あつくねえぜ。」と イモリは はなで くんくん。
「ははーん、 こりゃ おひさまのたまごじゃなくて サッカーボールだな。」と こえを あげた ボックリが それを ひとけり。
「かってに けるなよ、 あたしの たまご! おまえのせいで おひさまの ぼっちゃんが けがしたかも!」と ようせいちゃんが わめきます。
 ところが もう ネコゼが ボックリの みみを つかんでいまして。「もういっぺん たまごを うごかしてみろ、 ろうやに ぶちこむぞ。」
 そのときです、 リスが がぶっと おひさまのたまごの からを ひとかみして、 そのまま きのうえに とびあがりまして。
「うげ!」と はきだしたのです。「にがいったら ありゃしねえ!」
「だれか てあてして! あたしの たまご、 おひさまのたまごが!」と われを わすれて わめきちらす ようせいちゃん。 それを きいた ズアオアトリくんが とんできます。




 そして いうのです。「おっと、 ようせいちゃん、 それ おひさまのたまごじゃ ないよ。 おひさまのくだもの みたいなもので、 オレンジっていうんだ。 みたこと あるよ、 おひさまのくにでは きに なんびゃくと そういうのが ぶらさがってるんだ、 ぼくは ふゆを そこで すごすからね。 まつぼっくりみたいに、 みっしりと なってて、 なかには もう かくべつの ジュースが はいってるんだ。」
「なかみが ジュースだって?」と おおごえを あげる ボックリ。 さっと こがねいろの まんまるへ まわりこんで、 もってきた きのとげで あなを あけて くさのくきを つきさして すいこんだのです。
「うお、 うめえ!」と あじわいまして。「こんなに おいしいの はじめてだ!」
「なにを しておる!」と ネコゼが うなります。
 なのに ボックリは ネコゼに あじみを すすめるばかり。 というわけで くさのくきを ほかのみんなにも わたしました。 そして みんなで かこんで いっせいに すっての かんそうは ――「おいしい!」 あんまり あたらなかったのが けらけらガエルで、 というのも ボックリに わきを くすぐられてしまって ジュースを ちゃんと すえなかったのです。 ともかく せきばらいをして いうには ――「いいかい、 ようせいちゃん、 いつまでも ただで くわせてあげるから、 おみせで だすようの ジュースを たるで もってきてくれないかい?」




 ちょうど そこへ くいいじの はった おおきな カラスが とんできまして。 つばさを はためかせて なきごえで びっくりさせて みんなを けちらしたのです。 それから つめで オレンジを つかんで じぶんの すへ もってかえりまして。 カラスの こどもたちも みんな くちを あけて ほしがったのですが、 くいいじの はった カラスは けちでしたから いっきに オレンジを まるのみ、 のどに つっかえて あとすこしで しぬところでした。 そんなことが あって くびを いためまして なつのあいだは ずっと ほうたい ぐるぐる、 もう なくことも できません。 まあ このカラスには いいことだったのかも!




 とはいえ ようせいちゃんは カラスに おひさまのくだものを とられて おおなきでした。 ツグミが こえを かけます。「なかないで、 ようせいちゃん。 ぼくと いっしょに おひさまのくにまで きてもいいよ。 そこなら すてきな おひさまのくだものも いっぱい きに なってるからさ! きみは かなり かるいから、 ぼくの せなかに うまく のれると おもうし。」
 それを きいた ようせいちゃんは もう うれしくって、 もりじゅうを ぐるぐると おどりながら うたいました。「あたし おひさまのくにに ゆけるの、 おひさまのくにまで わたれるの!」




 やがて あきに なりまして、 ようせいちゃんは ツグミと いっしょに おひさまのくにまで いきます。 いまや ひざしのなか しあわせいっぱいに はしりまわって、 ちょうちょたちとも おうちの もりにいる なかまと おなじくらい なかよくなって。 おなかが へったら もってきた くさのくきを おおきくて あまい おひさまのくだものに ひとつ さして のめばいいだけ。 でも レモンは のみません、 だって ようせいちゃんには どうも すっぱくて しかたがないから。
 もし ふゆの どこかで ちょっと すかすかの オレンジに であっても、 がっかりしないでくださいね。 ようせいちゃんが ちょびっと ジュースを すった あのオレンジなのかもしれませんし! だとしたら おもしろいでしょう?
 さて ようせいちゃん とっても たのしく すごしながら、 それでも まいにち おひさまに むかって いうのです。「ねえ おひさま、 はやく おうちの もりで きらきらしてよね、 そうしたら すぐにでも はるに なるし!」




 というのも ようせいちゃん はるに なったら ツグミに おうちの もりへ つれてかえってもらおうと かんがえていまして。 やくそくだったのです、 だって ちゃんと 〈ようこそ おひさま〉を おどらないと アネモネが 出てきてくれませんし。
 ネコゼも ボックリも ようせいちゃん もどってきてと つよく ねがっていました。 なんども うろついては ツグミが こないかと めを うごかすのです。 ネコゼが ボックリに いいました。「ばかもんが、 ボックリ、 わかっておるだろ、 こんな ふゆの どまんなかに ツグミは とんでこんと!」 と いいつつ ネコゼも ついつい ようせいちゃんを さがしてしまって。 いちめん ゆきなのにね。
 ですから とうとう かえってきた ひには、 みんなは もう うれしくって、 そう もう うれしくって、 もりじゅうの みんなが でんぐりがえり!




 さて この おはなしの そもそもの はじまりですが、 ラッセという おとこのこが なつ のいちごを さがしに でかけて たまたま もりで おおきな オレンジを おっことした、 それだけだった ということも おわすれなく。



Original Text: Solägget (1932)
Original Author: Elsa Beskow (1874-1953)
   上記の翻訳底本は、著作権が失効しています。
翻訳者:大久保ゆう
※この翻訳は「クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンス」(http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/)によって公開されています。

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2012年5月31日翻訳
2012年7月1日ファイル作成
インターネット提供ファイル:
このファイルは、インターネットへフリー提供されています。




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